【ハンナと先生 南の国へ行く】7. 大魔法使い

ペリカーノ卿に勧められるがまま、私たちが椅子に座ると、一羽の鳥がテーブルに舞い降りました。ピッコロに良く似た鮮やかな緑色のインコでした。
「パロ王国国王のプリンス・パラキートです。ジョン先生、皆さま、ようこそお越しくださいました。
私は「え!」と思いました。鳥たちの王と言うので、もっと大きくもっとあでやかな鳥を想像していたからです。
しかし先生は普通にお礼の返答をしていました。
「遠いところより王子のためにお越しくださり誠にありがとうございました。あいにく王子は同席できませぬが、明朝みょうちょうあらためてご挨拶致しましょう」
王子はやはり具合が悪いようです。
「ささやかながら晩餐の席を用意しました。王国の近衛隊このえたいがこの食卓を守っております。どうぞ安心して食事をお楽しみください」
と王様が言いました。
「近衛隊? この辺りには何か危険な生物がいるのですか?」
と先生が尋ねました。
「はい、近衛隊は蚊を食べ尽くす特別部隊です」
「蚊ですか!」
「山の洞窟に住む洞窟コウモリ師範しはんの教えを受けた精鋭部隊せいえいぶたいです。鉄壁てっぺき防御ぼうぎょで先生方の快適なお食事をお守りしましょう」
後になって振り返って思うと、近衛隊の働きは見事でした。こんな森の中なのに、私たちはただの一度も蚊に刺されることなく晩餐を楽しむことができたのです。

その夜、多くの料理が晩餐として振る舞われました。
食べ物は木の実や果物を中心としたメニューでした。
「虫料理のことを心配されていたのではないですかな?」
王様は私にも気さくに声をかけてきてくれました。
「オーブ共和国の大統領は虫料理に目がなくて、当地にお越しになると必ず所望しょもうされるのですが、普通の人間の方はあまりお好みではないようですな」
「大統領もこちらにお越しになるんですか!?」
と私は驚いて訊きました。
「ええ、一年に一度友好を確認するためにいらっしゃいます。皆さまが行李こうりを解かれた部屋に、大統領もお泊まりになるんですよ」

飲み物は多分私の飲んだことのない果物をしぼったものでした。
最初に出てきたのは赤みがかって甘く、食事の途中で少し酸味のある黄色く透明な飲み物に変わりました。最後に出てきたのはほとんど水のようでしたが、ほのかに森の香りと柔らかな甘味がありました。

メニューの最後の方でステーキが出てきたときは驚きました。むと程よく歯応えがあり、肉汁が口の中に広がりました。ほんの少しだけ臭いが気になりましたが、おそらく果物の果汁で風味付けがされているのか、そんなにも気になりません。
「これは何という肉ですか?」
と先生が尋ねました。
「この辺りにいるけものの肉です」
「鳥だけでこれを調理するのは大変でしょう」
「クックドードーという大型の鳥がいて、彼らが調理しました。彼らは空は飛べないのですが、手先が器用で、このようなときは料理を作ってくれるのです」

食事の間中、様々な鳥が先生のところへやって来て挨拶をしていきました。インコのような小型の鳥から、鷹や鷲のような大型の鳥まで、様々な鳥が先生のテーブルを訪れました。くちばしが身体と同じくらい大きな鳥もいれば、地味な色合いの鳥もいました。飛べない鳥も何種類かいて、先生が座っている椅子のすぐ近くまでやって来ては、先生とごく短い挨拶の会話をしていきました。

鳥たちの中には水鳥の仲間もいました。
水鳥たちは順に私たちの元を訪れましたが、その最後に再びペリカーノ卿が姿を現しました。
「晩餐会は楽しんで頂いていますか?」
ペリカーノ卿が先生に尋ねました。
「はい、こんなにも美味しい食事をありがとうございます」
「そう言って頂くのはパロ王国にとって光栄です」
私はペリカーノ卿にずっと疑問に思っていたことを投げ掛けました。
「パロ王国では王様も王子様もプリンスというんですね」
ペリカーノ卿が答えました。
「はい、パロ王国を建国された初代国王が『わしは王様なんかになりたくない。王子のまま、ずっと気楽に歌っていたい』とおっしゃって、それ以来王になっても呼び名はプリンスのままとなりました」
「そういうことだったのか!」
と先生が声を上げました。私たちの会話が聞こえていたようです。

先生のところへはハチドリもやってきました。先生の顔の前でホバリングをしながら挨拶をしていますが、あまりにも羽ばたくスピードが速すぎて、羽根の形や色がよく分かりません。
ハチドリが来たときだけは先生はうなずきながらも少し困った様子でした。
「先生、どうしたんですか?」
ハチドリが去った後、私は尋ねました。
「それが、彼が何と言っているのかよく聞き取れなかったんだ。何か話しているように見えるんだけど、彼が発している鳴き声には特に意味がないんだよ」

そんな中メティスは一羽のオウムとずっと話し続けていました。
そのオウムはメティスよりも一回りは大きいようでしたが、羽根の色が若干古ぼけていて、動きもゆっくりでした。どうもメティスよりもさらに年を取っているようです。
先生のところに誰もいないのを確認して、メティスが私たちのいる辺りに近づいてきました。
「先生、是非この方の話をお聞きになってください。パロの歴史をようく知っておられます」
メティスが先生に勧めました。
「ほぅ、そうなのかい?」
「さあ、どうぞこちらへ」
メティスが促すと、そのオウムはテーブルの上をゆっくりと歩いて先生のところまでやってきました。
「初めまして、ジョン先生。メティス殿に請われて参りました。こんな年寄りの話にご興味をお持ちになるとはとても思えませんが」
「いえいえ、ぜひ聞かせてください」
と先生が答えました。
「どうぞ、先ほど聞かせていただいたパロの歴史について、先生にもお話しになってください」
とメティスが言いました。
「分かりました。それではお話ししましょう」

「このお話は、この国がパロと呼ばれる前にあったことです。その頃パロは、まだ一つの国ではありませんでした。この森には二羽の王様がいて、それぞれの国を治めていました。二つの国は互いにいがみ合っており、決して仲が良いとは言えませんでした。

「あるとき森に人間が現れました。人間たちはこの森に住む色の美しい鳥たちを持ち去っていきました。
「まず一方の国の鳥たちが奪われました。王様はなんとかしてそれを防ごうと思いましたが、一国の力ではどうすることもできません。それでもう一羽の王に助けを求めたのです。
「ところがもう一方の国の王様は、その助けの声に全く耳を傾けませんでした。相手の国の鳥たちがいなくなっても、別に構わないと思ったからです。

「そうこうしているうちに、もう一方の国の鳥たちも、人間たちによって持ち去られるようになりました。その国の王様も必死で抵抗しましたが、やはり一国ではいかんともなりません。それで初めの国の王様に助けを求めたのですが、先に援軍の求めを断ったのはこちらだったわけで、助けが送られてくることはありませんでした。

「こうしてどんどん森の中の鳥が奪われていったのです。

「その頃山奥に大魔法使いのインコがおりました。森に住む残された鳥たちは、王様を頼るのを止め、大魔法使いの住処を訪れました。そして、人間たちに仲間が奪われたこと、王様が互いに反目し合い、人間たちにされるがままになっていることを訴えました。

「大魔法使いは大いに怒り、山を下りると二羽の王をはいしました。そして人間たちと戦う代わりに森に呪いをかけたのです。それは人間にだけ効果のある呪いでした。

大魔法使いが森に呪いをかけた後、人間は森に現れなくなりました。鳥たちは大魔法使いに王様になってくれるようお願いしました。大魔法使いは初めはその願いを断りましたが、何度も何度も請われるうちに王様となることを承諾しました。そして大魔法使いは初代パロ王国国王キング・パラキートとなったのです」

私は「おや?」と思いました。パロ王国の王様は代々プリンスを名乗っていたはずです。先生も同じことを疑問に思ったようです。
「その頃は王様のことをキングと呼んでいたのですか?」
と先生が尋ねました。
「ええ、そうですよ。王様のことをプリンスと呼ぶようになったのは、もっと後の時代のことです」
とオウムは答えました。
「この国の鳥は自分たちの歴史も忘れようとしているのです。全く嘆かわしい」
オウムは溜め息をつきました。
「いや、ありがとうございました。大変貴重なお話を」
と先生がお礼を言いました。
「とんでもないことです。先生に私の昔話を聞いていただいたのは大変な名誉です」
オウムは頭を下げてその場を去りました。

暗くなると、周囲の木々にランプがともりました。そんなに明るくはありませんが、この場所にはこれぐらいが相応ふさわしい気がしました。
やがて晩餐会はお開きになりました。
私たちはランプを一つ貸してもらい、元来た道を通ってホテルに帰りました。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です